空沼岳には,青沼 ・
万計沼 ・真簾沼 の三つの沼が登山道沿いに点在し登山者の目を楽しませ,また疲れを癒し,これがこの山の人気を誇る理由の一つであるが,実は周辺には他にも沼が存在する。
万計沼と山頂を結んだ直線上(万計沼寄り)にある「ガマ沼(仮称)」(札幌市教育委員会刊行の「札幌の山々」より)と,万計沢の北に位置する湯ノ沢の源流部の「長沼」である。これらの沼へは残雪期か沢を遡行して行くか以外に近づくことができない(もちろん,私は行ったことがない。)。
それともうひとつ,岩が露出した山頂からさらに恵庭岳の方向(左側の一番下の写真参照)へ少し下って行くと眼下に「空沼(からぬま)」を望むことができる(と,ガイドブックに載っている。)。
私は,深い森の中にひっそりと佇んでいる沼や,切り立った山に囲まれて深い色をたたえ,しかし,容易に湖畔に近づくことができないような湖にどういうわけかすごく惹かれ,以前から「空沼」も是非見たいと思っていた。
しかし,ガイドブックにはブッシュ漕ぎの覚悟が必要と書かれているので一人では無理だと断念していた。
この日は天気も良く山頂で景色を楽しんでいると,二人連れが「空沼」の方へ行くではないか。少し迷ったが,先行者がいるという安心感から私も5分位後に出発した。そして,思いも寄らぬひどい目に遭ったのである。
藪が刈り分けられた道らしき跡をたどってしばらく行くと,先行の二人連れが引き返して来た。沼のことを訊くと,すぐその先(で沼が見える)と言う。その言葉に勇気づけられ,さらに進むと間もなく道らしき跡も消えハイ松(だったように思う。)の藪が前に立ちはだかっている。
すぐその先(で見えるあるはず)だからと,思い切って藪の中に分け入って行ったがなかなか藪が切れない。これはまずいと引き返すことにしたが,元の場所にもどることができない。
さあ,それからはハイ松の藪の中,何しろ枝が地面にまで張っているのでまともに歩くことができず,もがき苦しみ,文字通り,のたうち回ったのである。
一番参ったのは眼鏡を無くしたことである。落とした(と思った)とき,必死に地面を探した。眼鏡無しで眼鏡を探す?のは非常に困難である。どうしても見つからない。後で考えるに,途中の枝に引っかかったかもしれない。
幸運だったのは,好天のためガスもかかっておらず,藪の中にいても絶えず恵庭岳が見えたことである。そのため方向を見失うことはなく,とにかく恵庭岳を背にして進めばいずれは戻ることができるという安心感はあった。
人を恨むのは筋違いではあるが,二人連れは本当に「すぐその先」で見てきたのか。
結局,藪の中でおそらく1時間程格闘して,眼鏡(また4,5万円かかる。)と杖(と呼んでいいのか,秀岳荘で昨年買ったばかりでもったいない。)も失い,着ていたセーターもボロボロになってしまった。
しかし,もし恵庭岳のような目立つ山がすぐそばに無かったなら,そしてガスがかかって,その恵庭岳も見えなかったならと思うと到底この程度では済まなかったであろうと考えるべきであり,滑りやすい登山道を眼鏡無しで下山しつつ,また,帰路眼鏡無しで車を運転しながら(慣れた道,また,陽も長く夕方でも十分に明るい時期であったのも
幸いした。),単独での無謀な行動を反省する一日でありました。